片翼を君にあげる②
アッシュトゥーナ家本邸の庭。
休日には父ヴィンセントが趣味であるゴルフを楽しむ為に作られた大きな敷地の片隅。日除けの大きな傘が立てられた下にある丸テーブルの上で、私のポケ電がブブッと震えた。
その、微かな振動の音に"待ってました"とばかりに飛び付き、手に取って画面を開くと、見た瞬間に笑みが溢れる。
『最初の下剋上が決まった』
たった一言の文面。
けれど私にとっては他の誰からよりも嬉しいメッセージだった。
送り主はツバサ。
二歳年下の幼馴染みであり、私がこの世で唯一愛する男性。
幼い頃に離れ離れになり、身分差からなかなか思うように連絡が取れない日々が続いていたが、彼がドルゴア王国との繋がりの為に必須だった私の婚姻の替わりとなる"条件"を引き受けてくれた事がキッカケで、またこうして連絡を取り合う事が許される仲になった。
えっと……。何て返信しようかな?
「おめでとう」?「頑張って」?
あ、その前に「お疲れ様」かな?
「久し振り」って言うと、少し嫌味?もっと連絡が欲しいってワガママに聞こえちゃう??
早く返信したいのに、ついついソワソワと考え込んでしまう。
ツバサはこういうメッセージが苦手なのか、昔やり取りをしていた文通も短調だった。男の子ってこんなものなのかな?と思いつつ、自分は便箋いっぱいにいつも書いていた手紙。幼い頃はそこまで気が回らなかったが、もしかしたら面倒臭いと思われていたかも知れない。
そんな事を考えていたらなかなか返信出来ず、ポケ電を握り締めたまま画面と睨めっこしていた。すると……。
「ーー姉上面白い!百面相だぁ〜!
また"ツバサさん"からのメッセージですか?」
「!……こ、こら!」
そう言って私の手からポケ電を取り上げて無邪気に微笑む淡い茶色の髪と瞳の少年。この子はもうすぐ9歳になる、弟のレオ。
「お返事にお困りなら、僕が代わりに〜……」
「ダ、ダメ!返しなさいっ……!」
文字を打ち込もうとする様子に慌ててポケ電を奪い返すと、レオは「あ〜!」とつまらなさそうな表情を浮かべる。
全く。
可愛い弟なのだが、最近すごくませているから大変だ。