片翼を君にあげる②
「慣れてしまったのかも知れぬ。怖い事なんて、生まれてからずっとじゃったからのぅ」
「え?」
「小国と言えど、将来主になると決まった瞬間から命を狙われる事にも、襲われる事も常にも覚悟してきた」
「……」
「アメフラシの儀式の旅先で、こんな事態になりかけた事も何度かあった。ま、いつもはこうなる前に瞬空と言う堅物の護衛が護ってくれるんじゃがなぁ〜」
別にこの話をレノアーノ様にしたのは、平和な国で大切に育てられている彼女を妬んでいる訳でも、羨ましい訳でもなかった。
ただ、話したかっただけなのだ。レノアーノ様と、話がしたくて、聞いて欲しかっただけだった。
すると、そんな気持ちが通じたのか、身体の震えがいつの間にか止まったレノアーノ様が今度は質問してくる。
「一つ、聞いても良いですか?」
「なんじゃ?」
「蓮葉様は、どうしてツバサが好きなんですか?」
そう尋ねられた瞬間。わしは何故、自分が自らの事をレノアーノ様に話したのか分かった。
質問されて思わず浮かぶ笑み。
ーー……そうか。
わしは、こうしてずっと誰かと……。対等に恋愛話をしたかったんじゃ。
国の者達とは、特に同世代とは和気藹々と話す事は難しい。特に恋愛話なんてもってのほかだ。そんな話はするだけ無駄で……。いずれ身分ある者と政略結婚しなくてはならない事は、十分に理解して時が来れば受け入れるつもりだった。
けど、一度くらい……。
今だけ、普通の女の子としてこの気持ちを語りたいーー……。
そう思って、わしは口を開いた。
「幼い頃、会った事があるのじゃ」
「!……え?」
「もう十年以上前じゃがな。ツバサが父君のヴァロン殿と一緒に、我が国に来た時の事じゃ……」
わしは、レノアーノ様に話し始めた。
あれは、そう。自分が4歳の頃で、大好きなお祖母様が亡くなって暫くした日の事。