片翼を君にあげる②
「わしの名は蓮葉。蓮の花を支える葉なのじゃ。
見ておれよ、ツバサ!隠す必要などない、見せてやるのじゃ!どんな場所でも、わしは決して屈したりせぬ。
その名に恥じぬよう、花を支える葉にわしはなってみせる!」
そう言った蓮葉様は顔だけツバサの方を向けて振り返ると、最高に可愛い笑顔で微笑った。
でも、不思議。
その笑顔はとても可愛いらしいのに、同時に私には、とても格好良く映ったの。
汚れた水の中程その美しさを増してーー……。
本当に、その通りだと、思った。
蓮葉様は履いていた高い下駄を脱ぎ捨てると、裸足で駆け出して村の中心に行き。村人の冷ややかな視線にも、呟かれる嫌味にも負けないで、不思議な、聴いた事がない異国の言葉で紡がれたような歌を口遊み始めた。
強く、強く、咲くーー。
歌を口にしながらクルッと一回転したと思ったら、蓮葉様はそのまま舞を舞い始める。和服のようなヒラヒラした長袖の民族衣装と、彼女の艶やかな黒髪が流れるように揺れて美しい。
そのあまりの美しさに、村人達もいつの間にか黙って蓮葉様を見つめていて……。彼女を見る瞳が明らかに変わっていた。
あんなに敵意か怯えた感情を帯びた瞳だったのに、今はとても暖かくて、優しい眼差しに……、……。
そして。
この場に居る全員が蓮葉様に目を奪われていると、いつしか上空には雨雲が広がっていた。
私達がそれに気付くのは、独特な匂いを含んだ風が吹いた時。
「ーー……っ、おい!見ろよっ!!」
「っ、雨?……雨だ、ッ……雨だぞ!!」
村人達がザワザワとし始める。
見上げれば、ポツリ、ポツリ、と。私達に優しい雫が落ち、次第に勢いを増して降り注いだ。
でも不思議。
その雨には、ちっとも嫌な感じがしないーー。
何故ならこの雨に、村人みんなが笑顔になっていた。
それはまさに恵みの雨。天からの贈り物。