片翼を君にあげる②
カラカラだった大地は先程の雨ですっかり潤い、照りつけるようだった太陽の光も今では雨上がりの爽やかな日差し。
アメフラシの儀式をしただけで、この辺り一帯は本当に生まれ変わったようだった。
ボクも、新たな一歩を踏み出したいーー。
「ボクね、7歳の頃まで塔みたいな建物の中で母さんと二人で暮らしてたんだ」
「……え?」
ツバサの少し前を歩きながら、ボクは話を切り出した。
ツバサはその言葉が予想外だったみたいで、少し驚いたような、気の抜けた声。
ボクは歩いたまま続ける。
「そこには、毎日食事や着替えを運んでくる人達と、年に一回、見るからに威厳があって立派な服を身に纏った男の人が来るだけでさ。ほとんど、母さんと二人っきり」
ボクは、ゆっくり過去を振り返るようにツバサに話した。
母さんとの生活。勉強した事、絵本を読んでもらったり、一緒に絵を描いたりして遊んだ事。
夜は星空を眺めたり、遠くに見える、キラキラと輝く豪華な街がどんな風なのか想像して語り明かした事……。
「寂しくはなかったよ、楽しかった。母さんの事大好きだったし、それが当たり前だったからその頃はな〜んとも思ってなかったんだ。
……、……母さんが居るうちは、ね」
「……」
「でも、母さんが亡くなって……。たまに来てた立派な服の男の人に「今日から、一緒に暮らすぞ」って言われて、初めて建物から外に出て、馬車に乗せられたんだ」
「……」
「着いた先は、ドコだと思う?
……ビックリだよ。なんと、塔の中からいつも眺めてた、あの、キラキラと輝いた豪華な街。
ボクは、その時初めてその立派な服の人が自分の父親だ、って知ったんだ」
「……」
「……、……それから…………。
その自分の父親が、その街や、それを囲む広大な国を治める国王だったんだ、って事も」
「……え、っ?」
それまで黙って話を聞いていてくれたツバサが、小さく声を漏らした。
ボクは、ゆっくりと深呼吸をして、ツバサに言った。