片翼を君にあげる②
ここは港街にある劇場。
「頼む、ツバサ。妹を一緒に護ってくれ!」
建物内にある休憩室。
そう言って頭を下げるのは金バッジの夢の配達人、最初の俺の下剋上の相手となるナツキさん。
そしてその隣には、ナツキさんと同じ黒髪に黒い瞳を持つとても可愛らしい女性。彼女は妹のコハルさんだ。
今回の下剋上の内容。
それは数日前に届いた
【舞台に咲く美しき華
1番輝くその瞬間に摘みに参る 怪盗JACK】
と言う、一通の予告状から始まった。
つまり、この予告状を送り付けて来た謎の怪盗からコハルさんが誘拐されないよう護る、というのが下剋上の内容だ。
コハルさんは現在25歳。港街では有名な舞台女優で、中でも彼女が演じる『月姫の祈り』の月姫役は誰もが認める素晴らしい舞台だ。
元々絵本から舞台化したそのお話は、俺も幼い頃から知っていて、以前家族と一緒にその舞台を観た事がある。
コハルさん自前の見事な艶やかな長い黒髪、そして輝く漆黒の瞳が物語のヒロインである月姫ー桜ーそのもので本当に綺麗なんだよな。
そんなコハルさんがナツキさんの妹だったという真実に驚いたのは勿論だが、下剋上の内容に驚いたのも本当。
俺とナツキさんが勝負をするのではなく、俺とナツキさんが力を合わせて妹であるコハルさんを護るのだから……。
けど、悪くない。
殴り合ったり、強引に奪い合ったり、歪み合ったり……。そんな勝負方法よりずっとずっと俺は嬉しくて、心から全力で挑みたいと思えたんだ。
「勿論です。
一緒にコハルさんを護りますよ、ナツキさん」
「っ、……ありがとう!ツバサ!」
「ツバサさん、ありがとうございますっ」
俺の言葉にナツキさんは安心したように微笑ってくれて、またコハルさんも涙ぐみながらお礼を言ってくれた。
聞けばご両親はすでに他界。8個上のナツキさんは15歳で夢の配達人になって幼いコハルさんを養い、育て……。またコハルさんも慣れない家事を頑張り、その中で演技の勉強をして、女優の夢を叶え……。
二人はずっと力を合わせて生きて来たのだ。
絶対にこの兄妹の幸せは壊させないーー。
金バッジ昇格への想いは勿論だが、それ以上に俺はそう思った。