片翼を君にあげる②
「はわぁ〜……想像してたよりも、ずっと広いなぁ」
ここは港街にある劇場。
ツバサに"ある物"を届けて欲しい、と最高責任者に頼まれたボクは辺りを見渡して思わず感激のため息を吐いた。
劇場、という物に足を踏み入れたのは今日が初めて。
ボクの国にもお芝居や様々な芸を披露する場はあったけど、これまで劇場と呼べる程立派な建物で観た事はない。
白を基調にしたお城みたいな外観が美しいのは勿論、内装も劣らない。花や装飾品で飾られた壁に、輝く程に磨かれた床。入り口から舞台がある中央エリアに進む道のりにはえんじ色のカーペットが敷かれている。
今日は公演日ではないのにその上を歩くのは、何だかほんの少し胸が弾んだ。
……えっと。
ここに入って、いいんだよね?
笑みを浮かべ一歩一歩カーペットの感触を楽しみながら真っ直ぐ進んだ先にあったのは、舞台を観る観客席へと続く大きな扉。さっき建物の入り口付近に居た警備の人から、ツバサは劇団の人達とここに居ると聞いた。
何だか、ドキドキするな。
扉は防音設備がしっかりされているようで、耳をすませてみても中の音や様子は一切分からない。
高鳴る鼓動を一度深呼吸して抑え、ボクは扉に手を掛けるとゆっくりと引いた。するとーー……。
『ーー逃げてッ……!今すぐ、ここから逃げて!』
!!ッーー……え、っ?
真っ先に飛び込んできたのは、迫真の声。まるで自分に言われたかのようにドキッとした。
一瞬で惹きつけられた。
目も、耳も、心も……遠くの視線の先。舞台に立つ、ピンク色の和服を着た黒髪の女の子に……。
なんて可愛らしい子なんだろう。
その女の子は、自分がこれまで見て来たどんな子よりも可愛く映った。
ドキッと跳ねた鼓動は、暖かい、優しいものに鳴り変わって、ボクの足は自然と舞台に……。いや、女の子の方に向かって、ゆっくり歩み出していた。
『ここに居たら、貴方まで殺されてしまうわ!
……行って、月。……お願い、っ……行って』
これは、本当に演技ーー?
月、と言う役名の相手に必死に涙を堪えながら訴えかける健気な姿を見て、ボクの胸はキュンッと疼く。