片翼を君にあげる②
護ってやりたい。
すぐさまその震える肩を抱き締めて、"大丈夫だよ"と言ってあげたいーー。
そんな想いが浮かんで、慰める相手役の男に羨ましいと、嫉妬の感情を覚えた。
『月!私をここから連れ去ってッ……』
『おうっ、当たり前だ!』
相手役に説得されて、ようやく女の子が自分の気持ちを告げたところで「カーット!良かったよ〜!」と言う団長さんの言葉が掛かって、演技が終わる。
でも、ボクはまるで魔法にかかったままのように女の子から視線を逸らせない。
そんな、ポーッと見惚れるボクの時間が再び動きだすのはーー……。
「ーー!……お!ジャナフ、久しぶりっ!」
ッーー!?
……、……え、っ???
舞台上の女の子と瞳が重なって、名前を呼ばれた瞬間だった。
長い黒髪とは対照的な白金色の瞳。ボクはその眼差しを知っていた。それに、ボクを"ジャナフ"って呼ぶ、あの声は……。
「!!ーー……も、もしか……して。
……、……。ツ、ツバサ〜〜〜ッ?!」
首を少し傾けて微笑むその表情が親友の笑顔とピッタリ重なり、ボクはさっきまで自分が見惚れていた女の子の正体がツバサだと確信した。
彼が綺麗な顔立ちなのは知ってる。
けど、長い黒髪のウィッグを被り、ピンク色の着物を纏い、うっすら化粧をしたその姿は本当に美しくて……。何よりも……。
「ど、どう言う事なの〜その姿っ???
それに、ツバサさっきの声って……」
容姿に驚いたのは勿論だが、何よりも驚き不思議だったのが声だ。さっき舞台上で演じていた時のあの声。それは普段のツバサの声とは全く似ても似つかなく違っていて、彼があの声を出していたなんて信じられなくて……。
「あ、わりっ!まだ稽古の途中なんだ。
もう少しで休憩だからちょっと待ってて」
色々聞きたい事はあったけど、ツバサは団長さんに呼ばれるとボクに「ごめん」って仕草をして去って行ってしまった。