片翼を君にあげる②

夢の配達人のみんなは本当に優しい。今まで私が受け持ってきた患者さんはどの人も優しくて、お世辞や社交辞令の言葉はあれども、必要以上に迫ってくる人はいなかった。

でも稀に、私欲にしか目がないあれくれ者が居るーー。

そう聞かされてはいたけれど、まさか本当にーー……。

「ま、いいか。
食事より先に、互いの事を知るのもアリ、だよな」

「っ……?」

患者が舌舐めずりをしながらチラリと視線を移した先にあるのは、介護用のベッド。
それを見てこの先自分に起きようとしている事態を察すると、ますます情けない位に萎縮してしまう心と身体。

う、嘘でしょっ……。
誰か……助けてッ……!

「さ、ヒナタさん。俺が色々教えてあげるよ」

「っ……〜〜!」

どれだけ振り絞ろうとしても、喉で止まってしまった心の声は口から出ず叫び声にならない。
グッと抱き寄せられて、生温かい吐息が耳元に近付いてきて、私は思わず目をギュッと閉じた。

その時。

「ーーなら僕は、君がこの後どうなるか、教えてあげようか?」

ッーー……え?

もう駄目だと覚悟していた私の耳に届いたのは、大好きな優しい声。
目を開けると、私の瞳に映るのは……。

「!!ッーー……ひぃ!ミ、ミライさんっ!!」

始めは声を掛けられて「あ?」っと睨むように振り向いた患者は、自分に声を掛けた人物が誰なのか分かると、サーッと顔が青ざめていく。

私の目の前、患者の背後で耳元で囁くように立って居たのは、ミライさん。
振り向いた患者と目が合うとミライさんはにっこり笑って……。でも、目付きだけは鋭く光らせながら私の腕を掴む患者の腕をグッと掴んだ。

「このままだと、君の腕はボッキリ折られて叫び声を上げる事になる。
……あ!もしかしたら痛過ぎて声なんて出ないかもねぇ?」

「っひ……」

「そうだね!騒がれると面倒だし、いっその事腕だけじゃなくて声が出ないようにしても、いいかなぁ?」

静かなのに威圧の込もった声で囁きながら、ミライさんは患者の腕から首元へ手の位置を移動させる。

「……今すぐ彼女から手を放せ」

「!!っ……は、はぃッ!す、すみませ……ッ〜〜!」

恐怖に耐え切れなくなった子供みたいになった患者は、私の手を放すと逃げるように出口の方へ一目散。
けれど、そこで更に追い討ちをかけるように扉の前に立って居たのは……。
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