片翼を君にあげる②

っ、……どうしよう。
久々に会えたのに行っちゃうッ……。
あ!そうだ、お礼っ……言わなきゃ!

恐怖から解放されて、徐々に正気になってきた思考。ようやく、久々に大好きな人が目の前に居るのだと実感して、ドキドキと胸が弾み出した。

「っ、あ……ミ、ミライさん!」

とりあえず声を掛けなきゃ、と気持ちが焦る。ガタッと椅子から勢い良く立ち上がるとミライさんは立ち止まって、顔だけ振り向いて私を見てくれた。
瞳が重なってドキッとして、嬉しいのについつい視線が泳いでしまう。

「あ、あのっ……」

「ーー間に合って良かったよ」

「え?」

「可愛いんだから気を付けてね、"ヒナちゃん"。君に何かあったら、お父さん(ヴァロンさん)が悲しむ」

「っ……」

ミライさんのその言葉に、私の心境は複雑だった。
可愛い、は嬉しいけれど、昔から変わらない"ヒナちゃん"呼びは、完全に子供扱い。
それに"お父さん(ヴァロンさん)が悲しむ"の一言は、彼が私を心配してくれたのは……私が父の娘だからだと、実感したから……。

「大体、夜勤の者が女性1人ってのも問題なんじゃない?ノゾミ、そこはすぐに改正するよう最高責任者(マスター)に……」

「言われなくとも早急に」

「ははっ、そうだね。僕が口を出すまでもないね」

ノゾミちゃんにサラッと返されたミライさんは軽く笑うと、ドアノブに手を掛けた。

駄目だ、行ってしまう。
もっと会話をしたいのに、全然上手く話せない。大人になるにつれて、尚更……。複雑な気持ちがごちゃごちゃして、嫌になる。

「……月末、最終日にまた来るよ」

「!……え?」

「健康診断、ヒナちゃんが担当してくれるんだろう?よろしくね」

落ち込む心に届く言葉にハッとした。
そうだ、夢の配達人が順番に受ける健康診断。今年ホノカさんに付いてミライさんを受け持つのは自分。

私が担当って、覚えててくれたーー……。

「は、はい!こちらこそよろしくお願いします!
っ……助けて下さり、ありがとうございましたっ」

単純かも知れない。
ミライさんの言葉に嬉しくなった私はようやくハッキリと話せて、お礼も言えた。
すると、それを聞いたミライさんは右手を上げて軽く振って、部屋から出て行った。
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