片翼を君にあげる②

『月姫の祈り』舞台初日ーー。

チケットは全日完売にも関わらず、初日から劇場の外には開場の何時間も前からお客さんがずらっと並んでいた。
それを目の当たりにして、改めてこの舞台がどれだけ人気なのかを知り、俺の鼓動は少しだけ早くなった。

けど、劇団のみんなを見て思った。

前日までのバタバタが嘘のように、落ち着いて確認をする裏方の人達。そして、役者の人達もメイクを施し、衣装を纏ったら、昨日までとはまるで顔付きが違う。これがプロなんだ。
昨夜、千秋楽について軽く揉めた事から精神的に不安定なのでは?と心配していたコハルさんも、まるで今日は今日、と言いたげな雰囲気で、すっかりスイッチがONになっていた。

そんな中で、俺が出来る事はたった一つ。
この人達が怪盗に怯える事なく、邪魔されず、舞台を成功させる事だ。
そう実感すると、俺の心も落ち着いていった。


そして開演ーー。
万が一に備えてコハルさんに変装した俺は、舞台の脇から彼女を見守りつつ久々にじっくりとこの舞台を観ていた。

このお話は、満月の夜に願いを叶える事が出来る少女(おう)が、その能力(ちから)に目を付けた王に攫われてしまうところから始まる。
住んでいた里は焼かれ、住民は皆殺し……。絶望していた(おう)だったが、幼馴染みで密かに想いを寄せていた相手(げつ)は難を逃れており、彼女を助けにやって来る。
彼の身の安全を考えて一度は助けを拒む(おう)だったが、力強い言葉に突き動かされて、二人で共に地の果てまで行こうと誓う。

その後、自分達の事を誰も知らない地へ行こうと決めた二人は小さな港町に辿り着き、そこに暫し身を置きながら資金稼ぎを始める。
決して楽な生活ではないが、二人で過ごせるその時間はとても幸せそうで……。幼馴染みという関係からなかなか進展しない様子にはもどかしさを感じながらも、初々しいその姿は見ていて何だか和むんだ。

……しかし。
港町で迎えた満月の夜に、その幸せは終わる。
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