片翼を君にあげる②
***
千秋楽、本番前ーー。
桜の衣装に着替え支度を済ませた俺は、ジャナフを連れてコハルさんの控え室を訪ねた。
「今日の千秋楽、最初から最後までコハルさんが桜を演じて下さい」
「!……え?」
「!……ちょ、っ……ツバサ!何言ってんのっ?」
俺の言葉にコハルさんもジャナフも驚く。
当然だ。本番まであと三十分を切ってる。
そんな中で急遽告げる作戦変更。
しかも、それを俺が伝達しているのは今この場に居るコハルさんとジャナフ、そしてあと一人だけ。その他の者には変更を伏せて公演する。
これが"絶対に大丈夫だ"、と俺が確信を持てる最低限の人数。
「ジャナフ。
お前は今まで通り、普通に裏方を手伝ってくれていたらいい。けど、万が一"いつもと違う事が起こっても"普通にしててくれる人が絶対に必要なんだ」
「っ……ツバサ、分かってるの?もし、失敗したらッ……」
「ーー"何が起こっても"、最後まで続行してほしい。
……お前にしか頼めないんだ。頼む」
「……っ」
ジャナフはなかなか首を縦に振ってはくれない。困った表情をして、俯いてしまった。
……仕方ない。
誰だって、こんな本番直前に作戦変更されたら動揺する。夢の配達人になって間もない見習いの彼なら尚更だ。
出来れば彼の力を借りたかった。
けれど、無理強いすれば、それは俺がミスを犯した場合にジャナフを巻き込む事になる。
「……ごめん、無理言った。今聞いた事は忘れて」
「……」
俺はジャナフの肩をポンポンッと叩いて離れると、コハルさんの前に行き頭を下げた。
「全ての責任は、俺が背負います。
だからどうか、今日の千秋楽。コハルさんが最後まで演じて下さい」
これが、俺の中で出た答え。
コハルさんの気持ちは勿論だが、何よりも俺が観たいと思った。
彼女が演じる桜をーー?
いや、違う。
全てを演じ切った後の、あの何よりも素晴らしくて美しい笑顔を……。
千秋楽、本番前ーー。
桜の衣装に着替え支度を済ませた俺は、ジャナフを連れてコハルさんの控え室を訪ねた。
「今日の千秋楽、最初から最後までコハルさんが桜を演じて下さい」
「!……え?」
「!……ちょ、っ……ツバサ!何言ってんのっ?」
俺の言葉にコハルさんもジャナフも驚く。
当然だ。本番まであと三十分を切ってる。
そんな中で急遽告げる作戦変更。
しかも、それを俺が伝達しているのは今この場に居るコハルさんとジャナフ、そしてあと一人だけ。その他の者には変更を伏せて公演する。
これが"絶対に大丈夫だ"、と俺が確信を持てる最低限の人数。
「ジャナフ。
お前は今まで通り、普通に裏方を手伝ってくれていたらいい。けど、万が一"いつもと違う事が起こっても"普通にしててくれる人が絶対に必要なんだ」
「っ……ツバサ、分かってるの?もし、失敗したらッ……」
「ーー"何が起こっても"、最後まで続行してほしい。
……お前にしか頼めないんだ。頼む」
「……っ」
ジャナフはなかなか首を縦に振ってはくれない。困った表情をして、俯いてしまった。
……仕方ない。
誰だって、こんな本番直前に作戦変更されたら動揺する。夢の配達人になって間もない見習いの彼なら尚更だ。
出来れば彼の力を借りたかった。
けれど、無理強いすれば、それは俺がミスを犯した場合にジャナフを巻き込む事になる。
「……ごめん、無理言った。今聞いた事は忘れて」
「……」
俺はジャナフの肩をポンポンッと叩いて離れると、コハルさんの前に行き頭を下げた。
「全ての責任は、俺が背負います。
だからどうか、今日の千秋楽。コハルさんが最後まで演じて下さい」
これが、俺の中で出た答え。
コハルさんの気持ちは勿論だが、何よりも俺が観たいと思った。
彼女が演じる桜をーー?
いや、違う。
全てを演じ切った後の、あの何よりも素晴らしくて美しい笑顔を……。