片翼を君にあげる②
「そこで、もしかしたらナツキさんは今回の誘拐事件について何か知ってるんじゃないか?、って思ったんです」
「……それで、ナツキには内緒で作戦変更?」
「はい。ギリギリの、最小限にリスクを抑えて」
作戦変更を知っていたのは、俺とコハルさん以外に二人。ジャナフと、月を演じていた役者さんのみ。多くの人に伝達すれば、それだけ他人の耳に入り易くなる事から絞った最低限の人数。
予想外の事態が起きても俺を信じて普段通りに動いてくれる人と、カーテンコール時に変更になったコハルさんの演出を違和感なく演じてくれる人がどうしても必要だった。
俺はカーテンコール寸前に劇場を離れてしまったから、あの後どうなったのか分からない。
けど、絶対に上手くいっていると信じてる。
「依頼内容も守りつつ、舞台に立ちたいと言った役者の願いも叶えたのか」
「?……ミライさん?」
劇場の方を眺めていた俺の頭に、ミライさんの手がポンッと乗せられる。
その一瞬。
目をやると、何だかミライさんの笑顔がいつもと違って見えた。
遠くを見るような、懐かしむような、優しく切ない笑顔ーー……?
「良い、夢の配達人になったね。
ヴァロンさんもきっと喜んでるよ」
「っ……」
それは嬉しい言葉の筈なのに、ミライさんがいつもと違う笑顔で俺の頭を撫でるから……。何だか、複雑だった。
けど。
相変わらずこの人は、俺がつけ入る隙をくれない。
「それにしても残念」
「え?」
「見たかったな〜君が演じる桜。
……せっかくこんなに可愛いのに、勿体ない」
「!っ〜〜……ッ」
ミライさんは俺の全身を眺めるように見た後、俺が着けている長い黒髪のウィッグの先を掴み、そこに口付けながら上目遣いで微笑った。
そんなミライさんを見て自分の姿を思い出した俺は、何だか急に恥ずかしくなってくる。
任務中は気が張っていたし、舞台上では平気だったが……。もう任務は終わったし、今居るのは劇場から出た外。
そう思うと一分一秒でも早く脱ぎたかったが、ここには着替えもないし、メイクも落とせない。
このまま歩いて帰らなくてはならないのか、と思いながら苦笑いしていると、ミライさんが言った。