片翼を君にあげる②
「それだけで充分なんだけど……。今日はせっかくだから、もう少し贅沢言っていい?」
「っ……?」
「ずっと俺の傍で、微笑っていて下さい」
好きな人の望みが、自分。
月のその言葉は"好き"という直接的な言葉よりも、ずっとずっと心に響く。
優しい、愛おしい願いに、心が弾けてしまうーー。
いっぱいに満たされた心が、溢れて幸せの涙へと変わる。
堪えられずに、ただただ何も出来ずに身体を震わせながら涙を流していると、桜の手に頬をすり寄せながら月が昔を思い返すように語る。
「ずっと、一緒に帰りたいと思ってた。故郷の里に、桜と一緒に帰りたい、って思ってた。
……けど、もういいんだ。俺の里は、”ここ”だから」
」
それは大切な二人の想い出。
決して色褪せる事なく心の中にある、想い出。
「俺さ、いつも行商から帰る度に窓から桜に会いに行ってただろ?
あれは、1番にお前の顔が見たかったからなんだ。扉から行くと、まず先に桜の母ちゃんが出て来ちゃうじゃん?だから……」
いつも、誰よりも先に自分に会いに来てくれていた。
離れている時も、一緒に居なくても、彼は私を想っていてくれた。
自分が想っていたのと、同じように……。
「いつも、帰りたかった。桜のいる里が、愛おしかった。
お前の笑顔が照らしてくれる、明るい里。
お前が、俺の里なんだ。桜」
なんて優しい声で、名前を呼んでくれるんだろうーー。
自分の左手の薬指にそっと口付けて、照れ臭そうに微笑む彼を見た瞬間。胸の中にくすぶっていたものが消えていく。
桜は、実はずっと孤独だった。
ドジで引っ込み思案で役立たずだと思っていた自分が、ある日満月の夜に願いを叶える能力に目覚め、それを使う事が里のみんなを幸せに繋がると信じていた。