片翼を君にあげる②
でも、実際は違った。
不思議な能力を持つ桜を里のみんなは恐れ、そして「いつかあの子の能力がこの里を滅ぼしかねん」と噂していたんだ。
ーーああ、そっか。
桜は、俺と少し似てるんだ。
違和感なく、スッと役に入り込めた意味が分かった。
普通に見てほしい。
普通でいたい。
好きな人と、ただ一緒に居たいだけなんだ。
月は見てくれた。
"ただ、いつもみたいに微笑っていてくれたらいい"とーー。
そう、能力の事なんて望まずに愛してくれた。
それって、最高に……幸せ、だよな。
そう思ったら、俺は微笑んでしまった。
ここは桜が月の想いに触れて、泣きながら必死に自分の気持ちを伝える大事な場面なのに。
それ、なのに……。
次の台詞がもう口から出て来なくて、ただただ涙を流して、微笑んでしまった。
ーーダメだ。
これじゃあ、失敗……。
「ーー愛してる」
「っ……?」
フワッと優しく、包むように抱かれた。
ミライさんが、腕を引き寄せて、俺を抱き締めた。
本来、この場面では桜がやっと素直に自分の気持ちを告白しようとして……。でも、気持ちを伝える前に月が銃殺されてしまう切ない場面だ。
……それなのに、…………。
「愛してるよ……」
舞台にはない台詞と行動。
ミライさんは、俺を抱き締めたまま、もう一度そう呟いた。