片翼を君にあげる②
「……いい面構えだな、気に入った。
だがな、一つ訂正だ。"俺のような夢の配達人"になるな。
……そんなん、目標が小せぇよ」
顎を掴まれて、意地悪そうな笑みで見つめられて、気分は喰われる寸前の小動物。
でも、この人になら……喰われてみたいとさえ、思った。
「ミライ、俺を超えていけ。
いつか俺を脅かして、白金バッジを奪え!
それぐらいの勢いがなきゃ、面白くねぇからな!」
でも、僕がもっと成長したら?
この人はもっともっとすごい刺激と感情を、僕に与えてくれるのだろうかーー?
そう思うと、もう僕にはヴァロンさんしか見えなくなっていた。
「はいっ!!
いつか必ず、貴方の手から白金バッジを奪ってみせますッ……!!」
「……楽しみだ。
忘れんなよ、その言葉!」
交わされた、大事な大事な約束。
この約束は、僕の生き甲斐になって。
ヴァロンさんは、僕の特別になった。
その日から、幸せが溢れてた。
白金バッジのヴァロンさんは仕事が忙しくて滅多に会えなかったけど、会えない間に一人で修行していても孤独を感じる事はなかった。
頑張れば頑張った分だけ、ヴァロンさんに褒めてもらえる、認めてもらえる、そう思ったら嬉しさしかなかった。
久々に会えて、訓練をしてもらえる時はもうずっと胸が高鳴りっぱなし。
初めて会った時はゾクゾクしたけど、一緒の時間を過ごしていくうちに、ヴァロンさんの優しさに触れた時はドキドキしていたのを覚えてる。
もっと一緒に、居られたらいいのにーー。
いつしか、そんな感情が生まれていた。
でも、そんな事言ったら困らせてしまうだろうし、何より……嫌われたくなかった。
早く大人になりたい。
大人になって夢の配達人になれば、もっとヴァロンさんに近付ける。
当時の自分にはそう思いながら耐えて、頑張る事が精一杯だった。
僕の全ては、ヴァロンさんが中心ーー。
自分の胸の中に灯っていた"それ"が何なのかにも気付かずに、ただひたすらヴァロンさんを追いかけていた。