片翼を君にあげる②
「ツバサ君、あのさ……」
「!っ……」
「……(ムカッ)」
声を掛けて歩み寄ろうとすると、サッと顔を引っ込めてツバサは奥の部屋へと逃げて行った。
ムッとした。こっちがせっかく歩み寄ろうとしてるのに、ツバサは僕から一定の距離を保って逃げて行く。
別に無理して仲良くする必要はないけれど、ヴァロンさんが帰宅した際に最初と変わらない距離でいるのは、何だか見られたくなかった。
「ツバサ君、絵本読んであげようか?」
本棚を漁りながら声を掛けてみる。
「あ、これ!面白いよね〜?お兄ちゃんも昔よく読んだんだよ〜」
嘘、読んだ事なんてない。
何だこれ、『さあゆけ!怪盗ジャック』??
ありきたりな作り話が描かれた絵本なんて無駄だと思ってた。こんなの読む位なら、もっと将来に役立つ本を読んだ方がいいって思ってた。
そんな気持ちを隠してツバサに語り掛けた。
すると、ずっと一定の距離から近寄って来なかったツバサが急に駆け寄って来て、僕から本を奪った。
「っ?」
「っめ……!」
「は?」
「ちゃわっちゃ、めっ……!」
ちゃわちゃめ???
一瞬、何て言っているのか分からなかった。
でも、僕から絵本を奪って逃げて行き、また一定の距離を保ちながら、守るように絵本を抱えて蹲っているツバサを見て分かった。
触っちゃダメ、か?
なるほど。
こりゃ、相当信用されてないな。
自分の物は触らないでほしい、か。小さいクセに、そう言う考えはしっかり持ってるんだな。
面倒臭いなーー。
そう思って見ていたら、ツバサがビクッと揺れてゆっくり僕を見た。とても、怯えたような瞳で……。
その様子を見て、ギクッとした。
面倒臭い、と心の中で呟いたタイミングとツバサの動きがピッタリ過ぎて……。心を読まれたかと、思った。
でも、まさか、ね。そんな訳ない。
子供は人の感情に敏感って言うから、きっとその程度の事だろう。
微かに違和感を感じながらも、心を読まれるなんて有り得ない考えはさっさと振り払った。
それよりも、この状況を何とかしなければ。これでは最初よりも状況が悪化していて、まるで僕が両親の留守中に虐待している悪いベビーシッターみたいだ。