片翼を君にあげる②

「りーあ!まーお!」

信じられない光景に驚いていると、おそらくツバサが猫達の名前を呼んだ。
すると、猫達はサッとツバサの元へ行き、さっきとは全く違う穏やかな表情ですり寄っていた。そしてツバサは猫達をぎゅっと抱き締めると、もう一度僕の方をじっと見て来る。

「……。
そんなに僕が嫌い?分かったよ」

馬鹿馬鹿しい。
無理に微笑ったり、仲良くしようとしたりするのを僕はやめた。ツバサに背を向けると居間の方へ行き、ソファに腰掛ける。

何だかどっと疲れた。
「はぁっ」と深い溜め息を吐いた後、ふと近くの棚に置いてある写真立てが目に映り込んでくる。
たくさんの家族写真。どの写真も素敵な想い出や幸せが溢れていて……。その中で、ヴァロンさんも微笑っていた。写真嫌いだと聞いていたし、昔自分が見た雑誌や新聞では絶対に見られなかった幸せそうな笑顔。
中でも1番目を引いたのは、アカリさんを見つめるヴァロンさんの瞳。

……いいなぁ。
ヴァロンさんに愛されて、アカリさんは幸せ者だな。

その写真を見ていると、段々と胸が締め付けられるように苦しくなって来た。
すると、"頑張るのをやめたから"か、自分の口から信じられない言葉が飛び出す。

「ヴァロンさんはアカリさんの何処が良かったんだよ。ただ料理が上手いだけで、特別美人な訳でもないじゃん」

ーーッ……?!

ハッとして自分の口を押さえた。

僕は、今……何て言った?

動揺を隠せなかった。
これまでずっと、言葉遣いや態度を誰よりも気を付けていた自分の口から、こんな汚い言葉が出るなんて信じられなかった。

『ミライ君は本当にお利口さんね!
礼儀正しいし、愛想もいいし、羨ましいわ!』
『さすが夢の配達人最高責任者(マスター)の息子さん!
こんなに良い子、なかなかいないよ〜!』

そう周りから言われて、両親は嬉しそうに微笑ってた。僕の事を自慢の息子だ、って。
二人が微笑ってると、僕も嬉しかった。
僕の成長を、とても誇らしげにしてくれていた。
だから、頑張ろうと思った。

忙しい両親に迷惑かけちゃいけない。
大丈夫、僕は良い子でいる。
我が儘なんて言わない、反抗なんてしない。
大丈夫、我慢出来る。
僕は強い子だから、辛くても……平気、……。

「ーー……ッ?」

クンッ、と服の袖を軽く引かれた。
顔を上げると、いつの間にかツバサがすぐ傍に来ていた。
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