片翼を君にあげる②
さっきまであんなに距離を保っていたのに、何故ーー……?
色んな事が一度に起こって、動揺したままの僕。
そんな僕に、ツバサが言った。
「……ちゃいの?」
「えっ?」
「いちゃい、いちゃい、なの?」
いちゃい、いちゃいーー?
……痛い、痛い、か?一体、何がーー……。
「!!ッーー……見るなッ!!」
バッと掴まれていた腕を引いて、慌てて手首を隠すようにもう一方の手で押さえた。
見られた、見られたっ、見られたッ……!!
隠した手の下にあるのは、誰にも言えない秘密。死にたくても死にきれない自分が出来た、精一杯の行動の傷だった。
ずっと長袖で隠してきていたのに、いつの間にか袖口のボタンが外れていたんだ。
っ……落ち着け、落ち着け!
相手は子供だ、ただの傷だとしか思わないッ。
必死にそう言い聞かせて、動揺した心を落ち着かせようとした。
けれど、そんな僕をよそに……。ツバサはそっと、僕の胸の中心に手を触れる。
「!っ……」
初めは、その行動が理解出来なかった。
ただ、あんなに僕を避けていたツバサが、腕を振り払われて、怒鳴り散らされても傍に居るという現実が、信じられなかった。そして……。
「いちゃい、いちゃい……」
「え?」
「いちゃい、いちゃいの、ちょんでけ〜!」
「っーー……!!」
痛い、痛いの、飛んでけ〜!
小さな掌で心を撫でられて、そう言われた瞬間。
僕の目から、音もなく静かに涙が溢れ落ちた。
ツバサが言っていた「痛い」を指す意味は、手首の傷ではなかった。
心の、傷。ずっとずっと僕が隠してきた、誰にも言えない、僕自身にも見えていない傷だった。
……ああ、そっか。
僕はずっと、辛かったんだ。
いや、本当は分かっていた。
けど、曝け出して甘える事が出来ないから、見えないフリをして……。
本当は、ずっと誰かに気付いて欲しかった。
頑張ってる自分、言えない自分、嘘吐いてる自分に、気付いてほしかった。