片翼を君にあげる②
「本当はね、さっきの下剋上で白金バッジをあげるつもりだったんだ。
……でもさ。ツバサが桜を演じる姿を見たら、欲が出た」
次とか、来年とか……。自分が万全の状態ではない可能性があるなら、元気なうちにツバサと下剋上をしたかった。
そして、ちゃんと自らこの手で白金バッジを渡したかった。……けど、…………。
「すごく綺麗で、楽しくて、まるで夢の時間だった。
これで最後、なんて惜しくなって……。来年、更に成長したツバサをもう一度見たいと思った」
「……矛盾だらけですわね」
「ははっ、ごもっとも。
でも、まだ……この恋を、終わらせたくないんだ」
気付かないうちに恋をして、気付いた時には玉砕していたヴァロンさんへの想いと同じにはしたくない。今だけ、もう少しだけ、ツバサに恋をしていたい。
そんな想いが、叶わないと分かっていても悪足掻きする。
ふと、視線を向けるとノゾミはまるで今の僕の心を表しているかのような表情をしていた。常に薄笑いを浮かべて誤魔化している表の僕に隠された、裏側の表情を……。
ーー切なく、なるね。
僕は立ち上がると近くにあったショールを手に取り、キャミソールと下着姿で立ち尽くしているノゾミに羽織らせてそっと頭を撫でた。
「邪魔したね。帰るよ」
玄関に足を進め、靴を履いていると僕の背に向かってノゾミが言う。
「想いが叶わないからと言って、恋は終わりませんわ。
例え想いが届かなくても、その想いが本物ならば……。命ある限り、それは恋だと思います」
「……ーーうん」
深い、心に刺さる言葉だった。
その言葉に返事をすると、僕は扉を開けてノゾミの部屋を出た。一階に降りる階段を下っていると、1番下に人影が見える。
そこに居たのは、長い黒髪に黒い瞳。襟を交差させ袖口が広く長い、見た目が少し和服に似た蓮華国の民族衣装を身に纏った、僕より少し歳上の男性。
「どうも、瞬空さん。お久し振りです」
声を掛けると瞬空さんは切長の細い目で僕を見て、会釈すると階段を登ってくる。
彼は夢の配達人白金バッジの一人。そして……。