僕が愛した歌姫
失敗したもの
「リナちゃん!! リナ!?」


不安に背中を押されて俺はいつもの渡り廊下へ来ていた。


けれど、いつもの姿がそこにはない。


俺はフェンスにへばりつくようにしてリナの名前を呼んだ。


「……ナオキさん……?」


暗闇に飲まれてしまいそうな黒い服を着て、リナが廊下の向こうから近づいてきた。


その姿を見て、俺は心底ホッとして笑顔をこぼした。


「リナちゃん……」


「どうしたの? すごい汗」


走れない足でここまで走ってきたのと、嫌な汗でびしょぬれだ。


「あぁ……ちょっとね」


額の汗を手の甲で拭い、「今日は黒いワンピースなんだね」と言った。
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