僕が愛した歌姫
☆☆☆

約束を交わしたんだ。


いつかリナがそこから出れたら


君を、一番最初に抱きしめても、いいかな――?


そう聞くと、君は照れくさそうに頷いてフェンス越しに俺の肩に頭をもたげてきたよね。


その約束、きっと叶う。


俺が、叶えさせてみせるから――。


肩で大きく呼吸を繰り返し、俺は灰色の重たい扉を開いた。


時刻はまだ昼前で、夜中に見る風景とは随分違った物に見えた。


渡り廊下の中央にある窓からは明るい光が入り込み、廊下全体を照らし抱いている。


「リナ……」


こんな時間にここへ来ても、彼女がいないことなんてわかっている。
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