僕が愛した歌姫
さっきまで涙ぐんでいたはずなのに、今はもう俺の胸倉を掴んでいる。


かなり喜怒哀楽が激しくて扱いにくそうな相手だ。


「だ……断言はできませんが……助けます。助けたいと、思ってます!!」


胸倉を掴む手をギュッとにぎりかえして言う。


ここで断ったらこのまま屋上から放り投げられてしまいそうだ。


冷や汗が背中に伝い落ちた時、相手の力がフワッと緩んだ。


「ありがとう!!」


やっと解放されたのもつかの間、今度はたくましい二の腕にギューッと抱きしめられて、俺、窒息寸前。


「ぐ、ぐ……」


『苦しい』と訴えることもできずに青くなりかけていた時、突然体を離されて大きく酸素を吸い込む。


体中の血液が一気に流れ出す。


「自己紹介が遅れたな。俺の名前は霧夜(キリヤ)」


「は、はじめまして」
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