片思いの相手となぜか結婚します【優秀作品】
私が玄関にたどり着き、そこのインターホンのチャイムを押そうとすると、その前に中から戸が開いた。
「遠矢様ですね。こちらへどうぞ」
案内されて、足を踏み入れた瞬間、私は息を呑んだ。
ぅわぁ!
まず正面には、テレビでしか見ないような一枚板の衝立があり、古い日本家屋の趣がそこにはあった。
私が案内され、通された和室には、床の間に美しい牡丹の絵の掛け軸が掛けられ、部屋の中央には艶のある黒檀の座卓が置かれている。
おじいちゃんちも日本家屋だけど、こんなに豪華なしつらえはしてない。
私は、緊張しながら、澄子さんがやってくるのを待った。
程なくして現れたのは、小柄で白髪の上品なおばあさん。
「こんにちは。真吉さんのお孫さん?」
そう尋ねられて、私は、慌てて立ち上がろうとしたけれど、澄子さんに
「あ、そのままで、ね?」
とにこやかに言われて、中腰の状態からまた静かに腰を下ろした。
「あなたが真吉さんのお孫さん? お名前は何とおっしゃるの?」
上品な物腰で尋ねられ、私は居住まいを正して、答えた。
「遠矢 澄香と申します。澄子さんの澄の字に香りと書きます」
「まぁ!」
私の答えを聞いて、澄子さんは目を見開いて驚いた。
「私の名前にこの字を使いたいと言ったのは、祖父だと聞いています。なので、これは澄子さんの手元に置いていただくのが良いのではないかと思い、失礼を承知でお邪魔しました」
私は、そう言って、バッグから例の手紙を取り出し、澄子さんの方へと差し出した。
手紙に視線を落とした澄子さんは、手に取る事なく、視線を上げて尋ねる。
「真吉さんは、いつ?」
「先週の火曜日に。日曜に家を片付けていたら、これが出てきたんです」
私はあえて日記のことは伏せた。
もう何十年も前の終わった恋愛について、他人に知られたくはないだろうと思って。
「そう。
真吉さんは、お幸せでしたか?」
澄子さんは、幸せだったんだろうか?
そんな疑問が頭をよぎったけれど、私は尋ねることなく答える。
「はい。母とその弟、2人の子に恵まれ、孫も私を含めて5人おります。祖母は私が生まれる少し前に亡くなりましたが、穏やかで幸せな生涯だったと思います」
おじいちゃんに聞いたわけじゃないけど、いつもにこにこ穏やかに私たちと遊んでくれたおじいちゃんが不幸だったはずはない。
「そう。それなら良かった。私もずっと気がかりだったものですから」
そう言って、澄子さんは初めてその手紙を手に取った。
古い切手が貼られたその手紙をじっと眺めた後、持ってきていたペーパーナイフで手紙の封を開けた。
じっと無言でその手紙に目を通した澄子さんは、微かに目を潤ませながら、
「澄香さん、届けてくださってありがとう。これで積年の心のつかえが取れました」
とおっしゃった。
私はその手紙の内容を知りたくはあったけれど、それは聞いてはいけない気がして、ただ無言で頭を下げた。
「遠矢様ですね。こちらへどうぞ」
案内されて、足を踏み入れた瞬間、私は息を呑んだ。
ぅわぁ!
まず正面には、テレビでしか見ないような一枚板の衝立があり、古い日本家屋の趣がそこにはあった。
私が案内され、通された和室には、床の間に美しい牡丹の絵の掛け軸が掛けられ、部屋の中央には艶のある黒檀の座卓が置かれている。
おじいちゃんちも日本家屋だけど、こんなに豪華なしつらえはしてない。
私は、緊張しながら、澄子さんがやってくるのを待った。
程なくして現れたのは、小柄で白髪の上品なおばあさん。
「こんにちは。真吉さんのお孫さん?」
そう尋ねられて、私は、慌てて立ち上がろうとしたけれど、澄子さんに
「あ、そのままで、ね?」
とにこやかに言われて、中腰の状態からまた静かに腰を下ろした。
「あなたが真吉さんのお孫さん? お名前は何とおっしゃるの?」
上品な物腰で尋ねられ、私は居住まいを正して、答えた。
「遠矢 澄香と申します。澄子さんの澄の字に香りと書きます」
「まぁ!」
私の答えを聞いて、澄子さんは目を見開いて驚いた。
「私の名前にこの字を使いたいと言ったのは、祖父だと聞いています。なので、これは澄子さんの手元に置いていただくのが良いのではないかと思い、失礼を承知でお邪魔しました」
私は、そう言って、バッグから例の手紙を取り出し、澄子さんの方へと差し出した。
手紙に視線を落とした澄子さんは、手に取る事なく、視線を上げて尋ねる。
「真吉さんは、いつ?」
「先週の火曜日に。日曜に家を片付けていたら、これが出てきたんです」
私はあえて日記のことは伏せた。
もう何十年も前の終わった恋愛について、他人に知られたくはないだろうと思って。
「そう。
真吉さんは、お幸せでしたか?」
澄子さんは、幸せだったんだろうか?
そんな疑問が頭をよぎったけれど、私は尋ねることなく答える。
「はい。母とその弟、2人の子に恵まれ、孫も私を含めて5人おります。祖母は私が生まれる少し前に亡くなりましたが、穏やかで幸せな生涯だったと思います」
おじいちゃんに聞いたわけじゃないけど、いつもにこにこ穏やかに私たちと遊んでくれたおじいちゃんが不幸だったはずはない。
「そう。それなら良かった。私もずっと気がかりだったものですから」
そう言って、澄子さんは初めてその手紙を手に取った。
古い切手が貼られたその手紙をじっと眺めた後、持ってきていたペーパーナイフで手紙の封を開けた。
じっと無言でその手紙に目を通した澄子さんは、微かに目を潤ませながら、
「澄香さん、届けてくださってありがとう。これで積年の心のつかえが取れました」
とおっしゃった。
私はその手紙の内容を知りたくはあったけれど、それは聞いてはいけない気がして、ただ無言で頭を下げた。