片思いの相手となぜか結婚します【優秀作品】
「では、私はこれで……」

用件の済んだ私は、おいとましようとしたけれど、

「あ、ちょっと待って。せっかくだから、お茶くらい、ねっ?」

と言われて、断ることもできず、そのまままた座り直してしまった。

和子(かずこ)さん、和子さん!」

澄子さんは、襖の向こうへ声をかける。

すぐに先程案内してくれた女性が現れると、

「お客様にお茶をお願い。それから、てっちゃんを呼んでちょうだい」

と声を掛けた。

てっちゃん?

「こんなおばあさんの相手を1人でさせるのは申し訳ありませんからね、私の孫も呼びましたの。澄香さんはおいくつ?」

孫?

「28です」

私が答えると、澄子さんは明るい性格のようで矢継ぎ早に質問が来る。

「失礼ですけど、ご結婚は?」

「いえ、まだ」

30歳を目前に控えてるせいか、最近、やたら結婚について聞かれるなぁ。

「お付き合いされてる方はいらっしゃるの?」

「いえ」

この年代の方は、28で独身だというと、みんなこうなのかな?

この間の祖父の葬儀の時も、親戚一同から、同じ質問を何度もされた。

そこへ、お茶を持った和子さんが私の前と澄子さんの前にお茶を置く。

「奥様、哲哉(てつや)さんの分はどちらに……」

えっ?

哲哉さんって……

「ああ、それは澄香さんの隣にお願い」

それを聞いた和子さんは、私の隣に湯呑みを置いた。

そして、和子さんと入れ替わるように、長身の男性が鴨居に頭をぶつけないよう、少しかがんで入ってきた。

「おばあさま、何か?」

ぅわっ!

私は思わず息を呑んだ。

「いえ、私の昔の知り合いのお孫さんが訪ねて来てくださったの。一緒におしゃべりでもと思ってね」

澄子さんは、そうにこやかに笑うけれど、私は今すぐここから逃げ出したい。

「ああ、おばあさまのおしゃべりの相手は、1人では大変ですからね。すみません。おしゃべりな祖母で」

彼は、そう言って、私の隣に腰を下ろした。

「澄香さん、お願いがあるの。この子、私の孫なんですけどね、いい年して、未だにお嫁さんの成り手がいなくて困ってるの。澄香さん、うちにお嫁に来てくれないかしら」

は!?

澄子さんのあり得ない申し出に、私は耳を疑った。

けれど、よく考えたら、こんな話、彼が了承するはずがない。

私が波風立てて断らなくても、彼が断ってくれるはず。

そう思っていると、彼は、私の顔をまじまじと覗き込んで言った。

「ああ、そうしてくれると、助かるな」

は!?

「いえ、あの……」

言葉を失った私は、うまく受け答えできない。

「俺じゃ、ダメ?」

「いえ、そういうわけじゃ……」

そんな風に言われても困る。

ダメだなんて言えるわけがない。

「じゃあ、OKだ。よろしく。遠矢 澄香(とおや すみか)さん」

えっ? フルネーム!?

っていうか、私、OKした?

「まぁ、本当に? 嬉しいわぁ。真吉さんのお孫さんがうちにお嫁に来てくれるなんて」

えっ?

私、そんなこと、一言も……
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