片思いの相手となぜか結婚します【優秀作品】
なんだか、私が、返事に困ってる間に、どんどん、話が進んでいく。

「じゃあ、早めにおうちにご挨拶に行かなくてはね」

澄子さんが嬉しそうに言うと、

「そうだな。とりあえず、今日、俺だけ挨拶に行って、また来週にでも、両親の顔合わせをしようか」

は!?

なんでそうなるの!?

意味が分かんない。

「じゃあ、澄香さん、ご両親に今から行くって電話して」

いやいや、そんなのするわけないでしょ。

私が、戸惑って動けないでいると、

「じゃあ、俺からしよう!」

と彼はポケットから携帯を取り出した。

しようって言ったって、うちの連絡先知らないでしょ!

私が呆れていると、彼は素早く画面をタップして耳に当てる。

「こんにちは。遠矢さんのお宅ですか? 私、冨樫 哲哉(とがし てつや)と申します。はじめまして。この度、澄香さんと結婚させていただくことになりましたので、ご挨拶に伺いたいのですが、この後、お時間ございますでしょうか?」

は!?

なんで!?

本当にうちにかけてるの?

驚いた私は、呆然と彼を見守ることしかできない。

「はい。今、お電話代わりますね」

そう言った彼は、私にそのまま携帯を渡す。

「お母さんが話したいって」

お母さんがって……

戸惑いながらも、私はその携帯を受け取って、耳に当てた。

「もしもし?」

『もしもしじゃないわよ! 澄香どういうこと? あなたお付き合いしてる人がいるなんて、今まで一言も言ったことなかったじゃない』

電話の向こうで母がまくし立てる。

そうよ。もちろん、その通りなんだけど。

「あのね、そうじゃなくて……」

なんて言えばいいの?

澄子さんや彼の前で、結婚しませんとは言えない私は、母になんと言っていいのか分からなくて、困ってしまう。

『とりあえず、今から、ざっと掃除しておくから。1時間後にね! いい? それ以上早く来ちゃダメよ!』

えっ?

それって、掃除さえ終われば、結婚の挨拶を受け入れるつもり!?

戸惑う私に構うことなく、母は電話を代わるように言うので、私は携帯を彼に返した。

これ、どういうこと?

私から携帯を受け取った彼は、母と二言三言話した後、電話を切り、にこやかに微笑んだ。

「良かった。認めてもらえそうで」

は!?

私が返事もできずに固まっていると、澄子さんが口を開いた。

「てっちゃん、あなた、どうして澄香さんのご連絡先を知ってるの?」

そう! それ! なんで!?

「澄香さんは、うちの総務で働いてくれてるんだ。連絡先くらい、社長特権でいくらでも調べられるさ」

えっ……

社長、私のこと知ってた?

もう、驚きすぎて、何がなんだかよく分からない。
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