精霊王の娘
「ひうっ」

リリエナはびくっと肩を震わせて、金色の目を大きく見開くと、きょろきょろとあたりに視線を這わす。狼だろうか。ここに来るのだろうか。食べられるのだろうか。噛みつかれたら痛いのだろうか。……痛いのは、嫌だ。

大きな目から、ぼたぼたと涙が零れ落ちた。

助けてほしい。誰でもいいから、ここから連れて帰ってほしい。

「うぇ、アナイスさん……、ステアートぉ……!」

ギルドで優しくしてくれた寮母のアナイスや、グードの愛弟子だったステアートの名前を呼ぶも、そう都合よく現れるはずもない。

ぐしぐしと泣き続けているリリエナのはるか上空では、さっきまでオレンジ色だった空のほとんど青紫色に染まっていた。

狼の声が大きくなって、こちらに近づいてきているのがわかる。やがてがさがさと木の葉がすれるような音まで聞こえてきて、遠くの茂みの中に二つの光る目を見つけた瞬間、リリエナの悲鳴が凍った。

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