精霊王の娘
勢いよく茂みから飛び出してきた狼が、こちらに向かって走ってくる。

リリエナは、もうだめだときつく目を閉ざした。そのとき――

「リリエナにぃ、にゃにをするですかああああああ――――――!」

甲高い叫び声が響いた直後、リリエナの周囲を強い風が渦を巻くように取り囲んだ。

風の壁に阻まれた狼が吹き飛ばされて、キャンッと悲鳴を上げると、しっぽを巻いて逃げていくのが見える。

「とう!」

軽やかな掛け声とともにリリエナの前に降り立ったのは、もふもふした白い毛並みの、小さな犬のようなものだった。

犬のくせに二本足で仁王立ちして、前足の片方を空に向かって突き上げている。くるんと丸い金色の目が愛くるしいが、騙されない。今、この変な犬は喋らなかっただろうか。

ぱちぱちとリリエナは目を瞬く。

「……かぜの、せいれい?」

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