精霊王の娘
犬かと思ったが、犬ではないだろう。そうなれば、犬のような見た目をしていることがほとんどの、風の下級精霊くらいしか思い当たらない。

白もふ犬は、縛られているリリエナに近づくと、縄の端を口でくわえて引っ張った。

「今、ほどいてあげますかりゃね!」

小さな犬の力でほどけるはずがないのに、白もふ犬が縄を咥えて引っ張ると、それはまるで鋭い刃物で引き裂いたかのようにズタズタになって地面に落ちた。

「大丈夫でしゅか、リリエナ?」

どうしてこの風の精霊は、リリエナの名前を知っているのだろうか。

リリエナが茫然としていると、白もふ犬がリリエナの膝に両前足を乗せて顔を覗き込んできた。

リリエナが金色の瞳で黙って白もふ犬を見返すと、彼はどこかがっかりしたように尻尾を垂らした。

「……まだダメでしゅか」

「え?」

「なんでもにゃいのです」

白もふ犬はふるふると首を振って、それからにこっと笑った。

「僕はエンリー。今日からリリエナの家族ににゃのですよ!」
< 13 / 46 >

この作品をシェア

pagetop