精霊王の娘
エンリーは何かにつけて、何かを思い出さないかと問いかけてくる。そのたびに何かを忘れているような焦燥を覚えるが、けれどもその「何か」に心当たりがあるわけでもない。

(エンリーはいったい、何を思い出してほしいのかな?)

もしリリエナが忘れていることがあるのならば、いっそ教えてくれればいいのにと思ったのだが、エンリーによればそれは「僕の口からは言えにゃいことなのです」だそうだ。

(変なエンリー)

けれどもしつこく訊けばエンリーが困ったように尻尾を下げるから、リリエナは彼を問い詰めることができない。

(忘れてることって、なんなのかな?)

それが何なのかは気になるところだが、思い出さなくても毎日の生活に支障をきたさないため、エンリーには悪いが、必死になってまで思い出そうという気にはならない。

「きっとそのうち思い出せるよ」

リリエナはふわふわのエンリーをぎゅうっと抱きしめて笑った。



    ☆



「リリエナ―! ごはんにゃのですよー!」

リビングからエンリーの声が聞こえてくる。

ここは、リリエナがゴルゴドに捨てられた森である。

エンリーに助けられたあの日以来、リリエナの周りでは不思議なことばかり起こっている。

というのも、次々にリリエナの周りに精霊たちが集まってくるのだ。

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