精霊王の娘
洗いざらしの綿のワンピースに着替えて、リリエナは小走りで部屋を出た。大人ならば数歩ですむ短い廊下をぱたぱたと走ってリビングに入る。

リリエナがリビングに入ると、空中にぷかぷかと浮いていた真っ白いもふもふ犬――風の下級精霊エンリーが、リリエナと同じ金色の瞳を向けて笑った。

「おはようにゃのです!」

エンリーはちょっと舌足らずだ。

「おはよう、エンリー。いいにおーい」

リリエナがくんくんと鼻を動かす。

「今日はアナイスからもりゃったふわふわパンとポタージュにゃのです!」

エンリーの背後のキッチンでは、火の下級精霊であるポメが、口からぐわっと炎を吐いて鍋のポタージュを温めていた。

ポメは真っ赤な毛並みの短足の猫のような姿をしている。しっぽだけが異様に長くてふわふわで、そのせいか尻尾を自分で踏んではすっころぶ、ドジな精霊だ。

「今日はパンが丸焦げじゃないんだね!」

「うん! がんばった!」

ポメが炎を吐きながら得意げに振り返ったせいで、危うくダイニングテーブルが火だるまになるところだった。

端っこが燃えかけたテーブルを、ポンっと空中から姿を現した水の下級精霊ピュアが消火する。ピュアは水色の毛並みの耳の大きな狐のような姿をしている。ふさふさのしっぽが三本ある、目が大きな愛くるしい精霊だ。だが、性格はなかなか怒りっぽい。

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