玉響なる風は鳴る
風音が走っていると、風音にとっては見覚えのある紺色の髪の後ろ姿が見え、風音は「真冬!」と声をかける。
「……風音……と、誰……?」
紺色の髪を1つに結んだ女性は、葉月を見て首を傾げた。
「えっと……榎本 葉月、です」
「オレは、氷室 真冬(ひむろ まふゆ)。風音の、幼なじみで同い年」
やけに落ち着いた声で、女性――真冬は自己紹介をする。
「……言っとくけど、オレは女だ。見て分かる通り」
無表情で、真冬は言う。葉月も「僕もこんな格好してるけど、一応女の子だよ」と答えた。
「……そう。風音、手に持ってるそれは……」
「さっき真冬のお母さんに会ってね。これを真冬が忘れたから、届けて欲しいって」
風音が真冬に扇子を差し出すと、真冬は「忘れてた……」と風音から扇子を受け取る。
「……さて、間に合ったことだし……」
そう呟いた風音は、制服のポケットから扇子を取り出した。
「……ん。オレと、一緒に浄化しろと?」
「良く分かってるじゃん」
そう言った風音は真冬と背中合わせになり、2人は扇子を構える。次の瞬間、沢山の悪霊が風音たちを囲んだ。
「……おい、葉月。隙を見て、逃げるんだ」