玉響なる風は鳴る
風神の過去
『……おや?』
颯は扇子を片手に森の中を歩いていたのだが、悪霊の気配を感じて立ち止まる。
『……悪霊がいるねぇ』
颯は扇子を開くと風を起こし、視界に映る悪霊を浄化した。そして、颯は先程の悪霊の行動が気になり、悪霊がいた場所へと近づく。
小さな崖を覗いてみれば、地面には黒髪の紺の着物を着た男の子が倒れており、颯は急いで男の子を抱え上げると森に建つ屋敷へと向かった。
『……お兄様、その方は?』
『志奈……この子は、森の中で倒れていたのだよ』
腰まで伸びたターコイズグリーンの髪を1つに結んだ彼女――志奈は、布団の上で眠っている男の子を見つめ、黄緑色の目を心配そうに細めた。
その時男の子は目を覚まし、辺りを見渡す。男の子のターコイズブルーの瞳が、颯を捉えた。
『……目が覚めたかい?君、この森で倒れていたのだけど……』
『……あ、そうか……突然、怪物に襲われて……僕、五十嵐 千風と言います』
そう言って、男の子――千風は立ち上がるとぺこりと頭を下げる。
千風の口から出た怪物、という言葉に颯は「なるほどねぇ……」と呟くと悪霊の説明をした。颯がいつから幽霊が見えるようになったのか問いかけると、千風は暗い顔をする。
「……母ちゃんが、何者かに殺されてから……いや、殺される少し前からかもしれない……」