今夜もあなたと月、見ます。
「あ」
ちょうどその時、月にかかっていた雲が晴れた
月の光が綺麗に差し込む
ちょうどこの路地裏にまっすぐに、その光が入り込んできた
「不思議なくらい明るいでしょ?」
空を見上げたまま彼がそう呟く
彼の黒髪が月の光を受けて艶っぽく光り、グレー寄りの瞳がより薄く光る
「明るい」
すごい
月ってこんなに明るかったんだ
夜は暗いイメージしかないのに
まるで帷を捲り上げたかのような
明るい、夜
「ね?穴場でしょ?」
……
「うん」
「秘密ね?俺こういうのって独占したいタイプなんだよね」
じゃあ私が入ってきたのもまずかったかな
「でも、店員さんは特別ね」
その言葉に思わず反応すれば
ニッと笑って人差し指を鼻の前で立てた
本当、綺麗な人
彼ほど夜に映える人が、
月の光を自分のものにできる人がいるのだろうか
月を見るための秘密の場所だなんて案外ロマンチストなのね
確かに甘いカフェオレが好きそうだ
っていうか、この人が暴走族の総長なんて…
絶対ないでしょ
ロマンチストで甘党だよ?
瀧本さんの勘違いだよ
そうに違いない
喧嘩好きとは程遠い、そんな綺麗な横顔を盗み見た