今夜もあなたと月、見ます。



「……晴」



向かい側に座っていた響紀さんが手すりを離して私に手を伸ばす


「怖いから隣来て」

…え?


「…私がそっち行ったら揺れますよ」

「いいよ、来て」


…っ


少し、謎の覚悟をして、ゆっくり席を立つ

微妙に傾く台車


思えば、観覧車なんて

恋人のようだ


「ちょっと揺れたね」

「揺れましたね」


隣に座る

私のすぐ後ろから同じ窓を眺める

本当に、すぐ後ろ

もう、体はくっついてる


響紀さんの熱が、音が、香りが

ものすごく、近くにある


心臓の音、聞こえたらどうしようか

顔赤くなってないかな

変な汗かいてないかな

…可愛く、見えてるかな



「…晴」


声が、低い

いつもより、熱い

いつもより…甘い


「…こっち、見て」


観覧車の景色を見ていた私の後ろから

そう呼ぶ声


きっと振り向いたら、何かが変わる

振り向いたら、戻れなくなる

振り向いたら…


ゆっくりと、その熱に応えるように響紀さんを見上げた

あ、今、頂上だ



響紀さんの右手が私の顎を少し持ち上げる

そして、少し顔を斜めにして、近づく

暖かい、柔らかい、響紀さんの唇


キス


受け入れるのは難しいことではなかった


ゆっくりと目を閉じて、もう全部、彼に任せた

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