今夜もあなたと月、見ます。
「……店員さん…変わってるね」
へ?
ふっと力が抜けたような表情になった
「店員さんは店員さんの個性をこんなに綺麗に持ってるじゃん」
っ
作ったような笑いじゃない
歯を見せて、少し悪戯っぽく笑った彼に、何かを奪われた気がした
「素敵だと思うよ。俺は君のこと」
…トクンと、慣れない音が響いた
「ありがとう…ございます」
「こちらこそ…ありがとうな」
再び吹き上げる夜風に、サァッと木々の揺れる音が聞こえる
「遅くなると危ない。そろそろ帰った方がいい」
少し見つめ合ったあと、彼が不自然に目を逸らしてそう言った
「うん」
「ここら辺最近は特に治安が悪いから気をつけて。もし今日みたいにやばいやつに絡まれたら、俺の名前使いな」
名前?
「道枝響紀」
…みちえだ、ひびき
「多分ここら辺だったら俺の名前知ってるやつの方が多いと思うからさ。何かあったらこの名前使えば大抵はなんとかなる…と思う。自分で言うのもなんだけど」
くすりと笑った
何そのゴールデンカード的な便利さ
名前使えなんて現実で言われることになるとは思わなかった
でも
「自分のことくらい自分で守れます」
私は守ってもらうだけの女の子じゃないもの
「…ははっさすが。かよわいだけの女の子じゃないか。まあそうじゃなきゃあいつらに対してあんなに堂々と年齢確認できないよな」
整った顔を崩して笑う姿に再び心臓が鳴き声を上げた気がした