今夜もあなたと月、見ます。


「じゃあ切り札だとでも思ってて」

笑を含んだ声でそう言った


切り札か

使う時あるのかな

そうバンバン窮地に追い込まれるのはごめんだけど


「なーんてね」



「本当は俺のことを覚えておいてもらう口実だったりしてね」

…へ?

どういう意味?

「店員さん」


道枝さんは持っていたヘルメットをバイクにかけて、私の方へと歩いてきた

目の前に立たれると見上げなければ顔が見えない

見上げる私とそのグレーっぽい瞳をあわせて、優しく笑う


「簡単に忘れないでよ。俺のこと」

……

真正面で向き合う私たち

トクトクと心臓から血が流れる感覚



忘れられるわけがないでしょう

きっと、私は貴方のことを意味もなくずっと覚えている

たとえもう、会うことがなかったとしても



「忘れませんよ。半年くらいは」

そんな嘘をついて、気付きたくない気持ちに蓋をした

「ふふ、半年か」


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