今夜もあなたと月、見ます。
サァァ
木々が揺れる音
虫が鳴く声
夏の初めにしては涼しい夜
半月でも満月でもない中途半端な月
「…間宮晴です」
「え?」
「私の名前」
「…まみや、はる?」
「…はい」
何故、名乗ったのか
そんな必要なかったのに
その理由はわかるような気がするけど、気づかないでおきたい
「覚えておいてもらう口実はないけど、忘れないでください。半年くらいは」
半年間でも構わないから
貴方の記憶にいさせてください
「…わかった。忘れないよ。半年くらいは」
そう言い、目の前に立つ道枝さんの手が私に近づいた
そっと、私の頬に
触れるか触れないかの場所で手が止まった
淡い色の目は動かない
私もその目を見て、離さない
「じゃあ…そろそろ行くよ」
少しの時間が過ぎてから、彼がそう言った
ドキドキした
なんだったんだろう
何故、しっかり触れられなかったことを惜しいと思っているのだろう
長い足でバイクに跨る背中を見る
普通は会うことのないであろう私たち
お互い名前しか知らないような浅い関係
それでも、きっと忘れない
「今日はありがとうございました。さよなら。総長さん」
にっこりとなるべく可愛く笑った
「…うん。さよなら。店員さん」