今夜もあなたと月、見ます。
「それにしてもすげぇ人生だったんだな」
そんなことはない
珍しいっちゃ珍しいかもしれないけど
今時、こんな人特別希少というわけでもないだろう
「…そんなことないですよ。ただ、普通の人より知らないことが多いだけです」
親のこととか
そういうの…
「愛すとか愛されるとか、そういう感情を」
知らないだけだ
「意外と単純だぞ」
え?
「愛なんて、月の満ち欠けと一緒だよ」
月の満ち欠け?
「欠けて、満ちて、満ちたと思ったら、また欠けて」
欠けて、満ちて、満ちたと思ったら、また欠ける
「その繰り返しだよ」
何度でも欠け、何度でも満ちる
「良いのか悪いのか、わかりませんね」
「…じゃあ、俺が教えてやろうか?」
「…え?」
「俺が、愛してやろうか?」
…え?
風に揺れるお互いの髪の毛が時折視界を遮る
響紀さんの喜怒哀楽がわかりにくい表情が真っ直ぐ私を見ている
「…なんて言いました…?」
「……」
静かに瞬きをして、私から視線を外した彼は少しだけ笑った
「いや…なんでもないよ」
…そっか
もう一度言ってくださいと、言える度胸はまだない
気のせいだろうか
いや、気のせいだろう
響紀さんの人より白い肌が、ほんのり熱を持っているように見えたのは