今夜もあなたと月、見ます。
屋上に一つだけあるベンチに二人で腰掛けて
沈んでいく夕日を背に、ゆっくり口を開いた響紀さんを横目で見る
「俺が喧嘩するようになったのは中学の頃くらいだったかな」
道組のお頭の情報を知るからドキドキしているのではない
これはきっと
響紀さんのことを知れるから、変に緊張してるんだ
こくんと、言葉を頷いて受け止めていくことにした
「中学に上がって結構すぐ、父親の不倫が発覚して、親同士の関係が最悪になったんだよね」
ふ、不倫…
「まあ当然今は離婚してるんだけど、当時はそんなすぐに事が進むこともなく、毎日のように両親の怒鳴り合いの喧嘩があってさ。まあ俺のストレスも溜まるわけで」
私も、響紀さんも
”子供“だったんだもの
大人の都合に抗えない時があった
「その時くらいからあんまり家に帰らなくなったんだ。夜に街をぶらついてるとさ、変な奴らがいるんだよな。今の俺みたいな」
暴走族…?
「よく見かけたよ。喧嘩してる若い連中を。もちろん最初は傍観者だ。喧嘩なんてしたことないし、痛そうだし」
うん
「でも喧嘩を見ててもスッキリするわけじゃないし、心安らぐこともない…
ある時、親に八つ当たりされてムカついて自暴自棄になって、興味本位で喧嘩最中に足を踏み入れてしまった事があった」
…
「思えばそれが初めてかな、誰かに暴力を振るったのは。案外精神的にも肉体的にも疲れるもんだった。まあ楽しいことじゃなかった」