今夜もあなたと月、見ます。


「…でも、俺はなんでか勝てちゃったんだよ。喧嘩なんてしたこともないし、殴り方なんて知らない。でも、負けなかったんだ」

響紀さんがどこか遠い目をする

「強かったんだろうな、本当にたまたま。偶然強かった」


才能があったんだろう

喧嘩の才能が

だからこの若さでこの場所に登り詰めている

初めて会ったときに見た、あの蹴り

あれだけで十分わかる

この人の強さが


「楽器が演奏できるわけでも、絵が上手いわけでもない。秀でた何かを持っているなんてことはないけど、喧嘩だけはできた。それが俺だった」

何も嬉しくない

と言った表情だろうか?

響紀さんが馬鹿にしたようにふっと笑った


「それからはズブズブと沼にハマったみたいに埋もれていったよ。喧嘩することで鬱憤を晴らした。誰かを殴り飛ばすことで、自分にとって都合の悪いことを忘れさせていた。要するに『クズ』だよ」

くず…

「今は何も感じなくなっちゃったけどね。人を殴っても喧嘩しても何も。食べて寝るのと同じように、喧嘩するってことが当たり前になってしまった」

…慣れ、というのだろうか

私も何度も感じたことのある、慣れ


「で、高校に上がって檜山に出会った」

ひやま?

檜山って…もしかしてあの可愛い感じの男の子?

初めてここに来た時に、私に話しかけてきた人?


「檜山はああ見えてかなりの金持ちで、この場所を用意したのもあいつだ。
俺が家に帰らなくてもいいようにしてくれた。

そのまま檜山がこの"道組"っていう群れを作った。そしてたまたまその中で一番強かった俺に、今この立場をやらせてる」

< 95 / 177 >

この作品をシェア

pagetop