聖夜に身ごもったら、冷徹御曹司が溺甘な旦那様になりました
 完全に売り言葉に買い言葉だ。パワハラまがいの丹羽のやり方に腹は立ったが、だからといって退職までは考えていなかった。

(でも、ここまで言われたらからには……)

 玲奈は明日から無職になることも覚悟したが、彼女以上に慌てたのは丹羽だった。

「いやいや、副社長! 彼女はこう見えてものすごく優秀な秘書でして。ほら、芦原さん。自己紹介して」

 丹羽にそう促されても、玲奈は唇を引き結んだままだった。生来の負けず嫌いに火がついた。今さら彼に媚びへつらうのは死んでもごめんだと心のうちで悪態をつく。
 十弥は小さく息を吐くと、さきほどまで玲奈の座っていた椅子にどかりと座りこんだ。もてあますほどに長い脚を組み、背もたれに身体をあずけた。

「知ってるよ。入社以来ずっと秘書室所属の芦原玲奈。うちの役員連中はみんな君にベタ惚れだ」

 丹羽がここぞとばかりに会話をつなげる。

「そう、そうなんですよ! 上層部の信頼も厚い素晴らしい秘書です。彼女ならきっと副社長のお力になれるかと」
「あいにくだが、俺は女性秘書を置かない主義だ。優秀な男の秘書をすぐに用意してくれ。今日ここに寄ったのはそれを伝えるためだ」

 彼の言葉に。玲奈の眉がぴくりと動いた。

「業務に男性も女性もないのでは? そんな発想をされるなんて、副社長はずいぶんと前時代的な方ですね」
「あ、芦原さん!」
 
 青い顔で丹羽が玲奈の口を塞ごうとするが、玲奈はなかばヤケクソだった。

(この人のせいで私は仕事を失うんだもん。どう思われたって、かまわないわよ)
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