聖夜に身ごもったら、冷徹御曹司が溺甘な旦那様になりました
 無駄な意地をはらずに、さっさと退職願を書くべきだった。玲奈はすぐにそう後悔することになったが、もうあとの祭りだ。

「はぁ。見ているだけで癒される」
「きゃ~。今、目が合ったかも!」

 十弥の帰国に浮かれきっている秘書室メンバーを横目に、玲奈は深いため息をついた。

(みんなは副社長の中身を知らないから……素敵なのは外見だけなんだから!)

 驚くほど人遣いの荒い十弥に、玲奈は馬車馬のようにこき使われていた。

「資料の準備が遅い。一週間前には完璧にそろえろ」
「俺の秘書を名乗るつもりなら、政財界の動きは常にチェックしておけ」
「その会議に出る時間をほかの仕事にあてたほうが社の利益になる。そのくらいは君が判断するように」

 心を無にして玲奈は同じ台詞を返し続けているが、そろそろ限界かもしれない。無理やりあげた口角がひくひくとひきつっている。

「しょ、承知いたしました。副社長」

 とはいえ、彼の超人ぶりは称賛に値するだろう。膨大な仕事と分刻みのスケジュールを余裕の表情でこなし、ミスはいっさいない。
(鬼の異名はだてじゃないわ)
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