聖夜に身ごもったら、冷徹御曹司が溺甘な旦那様になりました
 現在の時刻は午後九時半。玲奈は秘書室所属だが、彼女のデスクは副社長室の一角にある。これは『呼び出す時間が惜しいから』という十弥の希望を聞いた形だ。彼のデスクは部屋の最奥、玲奈のデスクの斜め前にあった。

 接待やら会議やらでゆっくり寝る間もないだろうに、むくみもクマもない麗しい顔で十弥は資料を読みこんでいる。玲奈の視線に気がついたのか、彼がふいに顔をあげた。

「なんだ?」
「いえ、別に」

 玲奈は慌てて顔をそむける。顔立ちの美しさに見とれていたなんて、口が裂けても言いたくない。十弥は今思い出したというように、口を開く。

「そうだ、来週の副社長就任スピーチの原稿を明朝までに用意してくれ」

 玲奈はすべての仕事を片づけてようやく帰宅しようとしていたところだったが、完璧な仕事をしてみせると彼に啖呵を切った手前、できないとは言えない。

「――かしこまりました。どのようなメッセージを?」

 就任スピーチで大切なのは当人の思いだ。経営戦略でも意気ごみでも、十弥からのメッセージが必要不可欠だろう。だが、彼は皮肉めいた笑みを浮かべて玲奈に言う。
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