聖夜に身ごもったら、冷徹御曹司が溺甘な旦那様になりました
「君ほどの優秀な秘書なら俺が社員になにを伝えたいか、容易に推測できるだろう?」

 内心のいらだちを押し隠して、玲奈はにっこりとほほえんだ。

「では、三案作成しますので明朝に選んでくださいませ」
「楽しみにしてる」

 くるりと踵を返した彼の背中を見送ってから、玲奈は原稿作成に取りかかった。十弥が優秀であることは話に聞いて知っていたが、彼は入社以来ほぼずっと海外勤務だったのだ。彼の思想や信念みたいなものまでは詳しく知らない。玲奈はあらゆる社内資料を引っぱり出してきて、徹底的に彼を調べあげた。

(あれ……副社長って意外と……)

 明朝。玲奈が用意した三案すべてに目を通した十弥は満足げにうなずいた。

「君のイチオシは……この最後の案か?」
「はい! 副社長の持つ信念がもっとも伝わるのは三案めだと思います」
「わかった、これでいく。本番までに清書しといてくれ」

 玲奈は思わず胸の前で小さくガッツポーズを作った。彼のダメ出しがなかったのは、おそらくこの仕事がはじめてだ。

「ほかの二案も悪くない。いい仕事をありがとう」

 さらりと伝えられたその言葉に玲奈は耳を疑った。彼の口から感謝の言葉が出てくるだなんて、予想もしていなかった。

(別に懐柔されたわけじゃないけど……)

 自分自身にそんな言い訳をしながら、玲奈は口を開いた。
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