聖夜に身ごもったら、冷徹御曹司が溺甘な旦那様になりました
 十弥はふっと頬をゆるめて玲奈を見た。

「それに、俺も少し君を誤解していた。負けん気ばかり強くて自分の否は絶対に認めない女かと思っていたが違うんだな」

 玲奈はほんの少し肩をすくめてぼやいた。

「相手が副社長でなければ、むしろ大人しいほうかと思いますが」

 自己主張が苦手だからこそ、秘書室に長くとどまるはめになっていたのだから。ふたりは視線を合わせ、同時にふっとふき出した。

 十弥はデスクのうしろに設置されている彼専用のロッカーからネクタイケースを取り出し、玲奈に手渡す。ガラスケースのなかには綺麗に収納されたネクタイが四つ並んでいた。

「なんでしょうか?」
「スピーチのときのネクタイはどれがいいと思う? 参考までに君の意見を聞かせてくれ」

 玲奈は少し戸惑った。これまで多くの役員を担当してきたが、ネクタイ選びに口を出したことはなかった。そこは妻の領分だろうという気持ちがどこかにあったからだ。だが、十弥は独身だし、意識するほうがおかしいだろうか。
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