聖夜に身ごもったら、冷徹御曹司が溺甘な旦那様になりました
「秘書の業務じゃない。同僚との雑談だと思ってくれ」

 玲奈の迷いを察したのか彼はそんなふうに言った。

「さすがに副社長を同僚とは思えませんが……では僭越ながら」

 玲奈はネクタイを見比べる。生地の光沢、色合いの上品さ、どの品も最高級品であることはひと目でわかる。

「スーツはお決まりですか?」
「無難に黒にしようかと思っているが」

 玲奈は黒いスーツに身を包んだ彼を頭に思い浮かべる。ノーブルな気品とどこか野性的な色気をあわせ持つ十弥の美貌を、黒はもっとも引き立てる色だ。グレー系のタイでシックにまとめるのもいいし、渋めのグリーンも素敵だろう。

「悩みますね。副社長のようになんでも着こなせてしまう方だとかえって難しいです」

 正直にそう言うと、彼はからかうような眼差しを玲奈に向けた。

「なんでも似合うか?」
「それは、まぁ……いくら負けん気の強い私でも副社長の美貌は否定できません」

 老若男女、誰もが認めるイケメンだろう。いや、少し古風に男前という表現のほうがしっくりくるかもしれない。
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