聖夜に身ごもったら、冷徹御曹司が溺甘な旦那様になりました
 十弥はぺろりと自身の親指を舐めた。その仕草がやけに扇情的で、玲奈は慌てて視線をそらした。

「惚れるなよ」

心臓がどきりと小さく跳ねる。たった今、彼の色香に惑わされかけていたのを見透かされた気がしたのだ。玲奈は内心の動揺を隠すようにあえて冷淡な声を発した。

「惚れません。私は面食いではありませんから」

 ふと航平の顔が脳裏に浮かぶ。今の言葉は彼に失礼だったか。航平は十弥のような圧倒的な美形ではないが、客観的に見てもかっこいいと評される顔立ちだろう。

「ふぅん。なら内面重視か?」

 楽しげに自身の顎を撫でながら十弥は言う。

「そうですね。副社長のような男性は好みではないので、どうぞご安心を」
「それはよかった。安心したよ」

 惚れるなと言いながら、誘うような流し目を玲奈に送る。彼の考えていることは玲奈にはさっぱり理解できない。
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