聖夜に身ごもったら、冷徹御曹司が溺甘な旦那様になりました
「妊娠……私、どうも妊娠しているらしいんですよね」

 他人事のような口ぶりになるのも仕方ないだろう。妊娠した、いや妊娠するような行為におよんだ覚えすらまったくないのだから。

 十弥は大きく見開いた目をパチパチとまたたかせた。呆れているのかもしれない。望まない妊娠なんて、いい大人がするものではない。
 だが、次の瞬間に彼が発した台詞は玲奈の想像をはるかにこえてきた。

「タイミングを考えると……俺の子どもだろうな」

 本日二度目の、言葉を失うほどの衝撃だった。長い沈黙のすえに玲奈はようやく言葉を発した。

「笑えない冗談はやめてください」

 軽く伏せた玲奈の睫毛が小刻みに震えている。泣きたいのか、怒りたいのか、玲奈自身も感情のコントロールを失っていた。

「こんな大切な話の最中に冗談など言わない。俺が君を抱いたのは、先月の中頃。君が妊娠初期なら計算はぴったり合うはずだ。それとも、ほかにも心当たりがあるのか?」

 玲奈は眉をひそめて、ゆるゆると首を振った。

「なにをおっしゃっているのか、さっぱり……」

 彼はハンドルにつっぷすようにして深いため息を落とした。そして、探るような視線を玲奈に向けながら言う。

「まさか……本当に覚えていないのか?」

 意味ありげな眼差しと台詞に玲奈はたじろぐ。

(覚えていないのかって、なによ? 副社長の子どもだなんて、そんな馬鹿な話があるわけ……)

 十弥は自身のシートベルトを外すと、玲奈に覆いかぶさるような体勢で彼女の顎をくいと持ちあげた。

「ふ、副社長?」

 いまだかつてないほどの至近距離で視線がぶつかる。彼の大きな手が玲奈の頬をくすぐるように撫でる。
 十弥はまっすぐに玲奈を見つめて、きっぱりと宣言した。

「君は覚えていなくても、俺は鮮明に記憶している。君のお腹の子の父親は俺だ」


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