聖夜に身ごもったら、冷徹御曹司が溺甘な旦那様になりました
 行動で示す。そう宣言した彼の動きは素早かった。十弥はすぐさま自分のマンションに玲奈を呼び寄せ、同居生活がはじまった。
 たっぷりと愛情を注がれる穏やかな日々のなかで、玲奈は少しずつ妊娠の事実を受け止められるようになっていった。妊娠三か月に入ったところだが、幸運なことにつわりはとても軽いほうで少し貧血の症状が出る程度だった。

 その日、玲奈と十弥は百貨店にマタニティ用品を選びにきていた。お腹はまだまだ目立たないが、いつもの洋服が苦しく感じられるようになったからだ。マタニティ用のふんわりしたワンピースをいくつか見繕っていると、隣の売り場のベビー用品が目に入った。

「副社長、見て、見て!」

 玲奈は彼の腕を引いて、そちらに足を向けた。ブラックウォッチ柄のベビー服を手に取り、彼に見せる。

「これ、副社長がくれたキーケースと同じブランド。ベビー服もあるんですね、知らなかった!」

 結局、あのキーケースは今玲奈のバッグのなかにある。何度も返すと言ったのだが、彼が頑として譲らなかったからだ。

「この柄なら男の子でも女の子でもかわいく着られそう」

 玲奈は華やいだ声をあげたが、値札を確認して固まった。こんなに小さい洋服なのに玲奈が今日着ているニットワンピと同じ金額だ。長くても数か月しか着られないであろう服にこの金額はとても出せない。

「……お値段がかわいくなかったです」

 玲奈は苦笑混じりに言って売り場に戻そうとしたが、十弥の腕が伸びてきてそれを奪った。
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