聖夜に身ごもったら、冷徹御曹司が溺甘な旦那様になりました
四章
 二月十四日、バレンタインデー。

 ダイニングテーブルに買い物袋を置いた玲奈は思わず「ふぅ」と大きく息を吐いた。大して重い荷物でもないのだが、最近やけに疲れやすくなった。

「買い物なら俺が行ったのに」

 玲奈の帰宅に、自室から出てきた十弥が心配そうに言った。今日は日曜日だが、十弥は自宅で残した仕事を片づけていた。ふたりでゆっくりディナーをするためにがんばってくれているのだ。そんな彼に車を出してほしいとはとても言えなかった。玲奈は微笑を浮かべて首を横に振った。

「適度な運動は必要だってお医者さまも言ってたから」
「だが……」
「大丈夫だって! 十弥はちょっと過保護すぎる」

 玲奈は人差し指を彼の顔の前に突きつけた。実際、彼は玲奈に甘すぎるのだ。こんなふうに誰かに大切にされるなんて、玲奈には初めての経験で戸惑うばかりだった。
 十弥は玲奈のお腹を眺めて、眉をさげた。

「見た目には全然わからないが、少し大きくなっているのか?」
「少しね。まだ誰にも指摘されたことはないけど」

 まだ会社には妊娠を報告していなかった。親しい友人にも、母親にもだ。それに……玲奈は十弥の顔を見あげる。

(十弥にも自分の気持ちを伝えていない。こんなに大事にしてもらって……ちゃんと言葉にしないと)

 今夜こそ。そう思いながらも、なんだか気恥ずかしくて時間ばかりが過ぎてしまった。

「なんだ?」
「ううん、なんでも……」

 玲奈は頬を染め、ぱっと顔をそむけた。
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